夜のカフェテラス:黒を使わずに描かれた、アルルの星空

夜のカフェテラス:黒を使わずに描かれた、アルルの星空

名画
作者
フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年
1888年
所蔵
クレラー・ミュラー美術館
所在地
オランダ・オッテルロー

ゴッホが1888年9月、アルルの夜に現地で描いた油彩画。黒を使わず、ガス灯の黄と夜空の青の対比で夜を表現しました。オランダのクレラー・ミュラー美術館所蔵で、日本への貸し出しを経て2026年9月に館へ戻ります。

「夜のカフェテラス」は、フィンセント・ファン・ゴッホが1888年9月、南フランスのアルルで描いた油彩画です。ガス灯に照らされたカフェのテラスの温かい黄色と、星が瞬く深い青の空。夜の情景でありながら黒をほとんど使わずに描かれた点が、この作品を特別なものにしています。オランダのクレラー・ミュラー美術館が所蔵しています。

夜のカフェテラスとは

オランダ語の題は Caféterras bij nacht(Place du Forum)。制作は1888年9月16日ごろ、技法はカンヴァスに油彩で、大きさは80.7×65.3センチです。舞台となったのはアルルのフォルム広場に面したカフェで、ゴッホは屋外の夜間、実際にその場にイーゼルを立てて制作しました。当時、夜の情景は暗い色調で描くのが常識でしたが、ゴッホはあえて明るい色の対比によって夜を表現しています。

興味深いのは、空に描かれた星の配置です。天文学的な調査により、1888年9月16日から17日にかけての実際の夜空の星の位置と一致することが判明しています。つまりこの空は想像で描かれたものではなく、その夜ゴッホが見上げた本物の星空なのです。

どこで見られる?

  • 所蔵先:クレラー・ミュラー美術館(Kröller-Müller Museum、作品番号 KM 108.565)
  • 都市:オランダ・オッテルロー(デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内)
  • 展示室:ゴッホのコレクションを集めた常設展示室
  • 展示状況:本作は日本での大規模なゴッホ展に貸し出されており、美術館の案内によれば2026年9月に館へ戻る予定です。訪問前に必ず公式サイトで展示状況を確認してください
  • 予約:美術館は国立公園の中にあり、公園の入園料と美術館の入館料の両方が必要です。オンラインでの事前購入ができます

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 黒を使わない夜:影の部分にも青や紫が置かれ、画面のどこにも真っ黒がありません。色だけで夜の暗さを成立させる実験が、実物では一目で分かります。
  • 実在する星空:空の星の並びは、制作された夜の実際の天体配置と一致します。写生の徹底ぶりが、幻想的に見える画面を裏側から支えています。
  • 敷石の筆致:手前の石畳は、短い筆の動きを積み重ねて描かれ、奥へ向かって視線を引き込みます。テラスの光が路面に落ちる様子まで筆致で表されています。

描かれた背景

1888年2月、ゴッホはパリを離れてアルルへ移り、強い南仏の光の中で色彩の実験を重ねていました。この時期、彼は夜の情景を描くことに強い関心を寄せており、「夜のカフェテラス」に続いて「ローヌ川の星月夜」も制作しています。夜を暗い色ではなく豊かな色彩で描くという方針は、この一連の作品で徹底されました。作品が1891年に最初に展示された際には、「夜のコーヒー店」という題が付けられていました。

所蔵するクレラー・ミュラー美術館は、実業家の妻ヘレーネ・クレラー=ミュラーが早くからゴッホの価値を見抜き、収集した作品を基盤とする美術館です。油彩約91点、素描約180点という、ファン・ゴッホ美術館に次ぐ世界第2位のゴッホ・コレクションを擁しています。広大な国立公園の中に位置し、屋外の彫刻庭園も併設されているため、一日かけて過ごす価値のある場所です。

この時期のゴッホは、弟テオへの手紙で自分の制作の狙いを細かく書き残しています。夜の情景を黒ではなく色で描くという方針も、その書簡から読み取れる意図のひとつです。アルルでの日々は、後に画家仲間ゴーギャンとの共同生活と決裂へ向かう緊張をはらんでいましたが、「夜のカフェテラス」が描かれた9月の時点では、南仏の光と色に手応えを得た高揚が画面に満ちています。屋外で、しかも夜に、ガス灯だけを頼りに描くという困難な条件を選んだこと自体が、その意欲のあらわれと言えるでしょう。

まとめ

「夜のカフェテラス」は、ゴッホが色彩だけで夜を描き切ろうとした挑戦の記録です。所蔵館のクレラー・ミュラー美術館は交通の便が良いとは言えない場所にありますが、その分ゴッホの作品群をゆったり鑑賞できます。本作は現在貸し出し中で2026年9月に戻る予定とされているため、訪問を計画する際は必ず公式サイトで最新の展示状況を確かめてください。