フィンセント・ファン・ゴッホ:燃えるような色彩と情熱。不器用に生きた天才の生涯

フィンセント・ファン・ゴッホ:燃えるような色彩と情熱。不器用に生きた天才の生涯

画家

『ひまわり』や『星月夜』で知られる世界で最も愛される画家。「生前はほとんど絵が売れなかった彼の、あまりにもドラマチックな人生に迫ります。」

フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)は、オランダに生まれ、フランスで没した画家です。絵具をキャンバスに直接塗りつけたような強烈な筆致と、燃え上がるような黄色と青の色彩は、世界中の人々の心を捉えて離しません。しかし生前の彼は、ほとんど絵の売れない無名の画家でした。画家として活動した期間は、わずか10年です。

生涯:37年、そして画家としての10年

オランダ南部の村ズンデルトに、牧師の長男として生まれました。16歳で画商グーピル商会に勤め、ハーグ、ロンドン、パリで働きますが解雇されます。その後は教師、書店員を経て、ベルギーのボリナージュ炭鉱地帯で伝道師として貧しい人々に寄り添おうとしましたが、これも認められませんでした。「自分には絵を描くことしか残されていない」と決意したのは1880年、27歳のときです。

ハーグでは親戚の画家アントン・マウフェに手ほどきを受け、オランダ時代は農民の暮らしを暗い色調で描きました。1886年にパリへ出て弟テオと同居すると、印象派の明るい色彩と日本の浮世絵に触れ、画風が一変します。

1888年2月、南フランスのアルルへ。強い陽光のもとで代表作が次々に生まれ、芸術家の共同体をつくろうとゴーギャンを呼び寄せました。しかし二人は激しく衝突し、同年12月、ゴッホは自らの左耳の一部を切り落とします。翌年サン=レミの療養院に入り、そこで《星月夜》を描きました。1890年5月にパリ近郊オーヴェル=シュル=オワーズへ移りますが、7月に自ら銃で傷つけ、二日後に37歳で亡くなります。生涯を支え続けた弟テオも半年後に世を去り、二人はオーヴェルの墓地に並んで眠っています。

画風の特徴

最大の特徴は絵具の厚みです。チューブから絞った絵具をほとんど溶かずに置く「インパスト(厚塗り)」により、画面は波打つように盛り上がり、筆やパレットナイフの跡がそのまま残ります。色は補色を隣り合わせる方法が徹底されていて、黄色を輝かせるために青や紫を、赤を強めるために緑を隣に置きます。また輪郭を濃い線で囲む描き方は、パリで熱心に模写した浮世絵から学んだものでした。晩年には、糸杉や麦畑がうねるように波打つ、独特の筆の流れが現れます。

代表作

  • ひまわり(1888年、東京・SOMPO美術館):アルルで描かれた連作のうちの一点。アジアで唯一鑑賞できる《ひまわり》です。
  • ジャガイモを食べる人々(1885年、アムステルダム・ファン・ゴッホ美術館):オランダ時代の集大成。暗い室内で農民一家が食卓を囲む、初期の代表作です。
  • 夜のカフェテラス(1888年、オランダ・クレラー=ミュラー美術館):黄色いガス灯と青い夜空の対比。補色の効果が最もよくわかる一枚です。
  • 星月夜(1889年、ニューヨーク近代美術館):サン=レミの療養院の窓から見た夜空を、記憶と想像を交えて描いた作品です。
  • 赤い葡萄畑(1888年、モスクワ・プーシキン美術館):生前に売れたことが確実に知られている数少ない作品で、画家アンナ・ボックが購入しました。

同時代の作家との関係

ゴッホの生涯を語るうえで欠かせないのが、画商だった弟テオです。テオは兄を経済的にも精神的にも支え続け、二人が交わした膨大な手紙は、絵画についての深い思索を今に伝える貴重な記録になっています。ポール・ゴーギャンとのアルルでの共同生活は約2か月で破綻しましたが、この時期の緊張が両者の作品を大きく動かしました。パリではエミール・ベルナール、トゥールーズ=ロートレック、シニャックらと交流しています。生涯尊敬したのは農民を描いたミレーで、晩年まで模写を重ねました。そして歌川広重や渓斎英泉の浮世絵は、模写を通じて彼の色と構図を根本から変えています。没後、テオの妻ヨハンナが作品と手紙を粘り強く世に出したことが、今日の評価の出発点になりました。

日本で見られるか

東京・新宿のSOMPO美術館が《ひまわり》を所蔵しています。1987年に前身の安田火災海上保険が競売で落札したもので、アジアで唯一常設的に見られる《ひまわり》です。ほかに国立西洋美術館(東京・上野)、ひろしま美術館(広島市)も油彩を所蔵しており、日本にいながらゴッホの実物に触れられる機会は決して少なくありません。

見どころ

ゴッホの絵は、印刷や画面で見るのと実物とではまったく印象が違います。絵の横に立ち、斜めから画面をなめるように見てください。絵具が数ミリ盛り上がり、筆の毛の一本一本の跡が残っているのが見えます。この凹凸が展示室の照明を受けて陰影をつくり、画面そのものが動いて見えます。次に、離れて色の隣り合わせを確認してください。黄色の隣にどんな色が置かれているかを見れば、なぜこの絵がこれほど鮮やかに感じられるのかがわかります。

代表作ギャラリー

ひまわり
ひまわり1888年ロンドン・ナショナル・ギャラリー
星月夜
星月夜1889年ニューヨーク近代美術館
夜のカフェテラス
夜のカフェテラス1888年クレラー・ミュラー美術館
ジャガイモを食べる人々
ジャガイモを食べる人々1885年ファン・ゴッホ美術館
カラスのいる麦畑
カラスのいる麦畑1890年ファン・ゴッホ美術館
アイリス
アイリス1889年ゲッティ・センター
夜のカフェ
夜のカフェ1888年イエール大学美術館
ローヌ川の星月夜
ローヌ川の星月夜1888年オルセー美術館

作品画像はパブリックドメイン(出典: Wikimedia Commons)