裸のマハ/着衣のマハ:同じポーズで並ぶ、ゴヤの二枚一組
- 作者
- フランシスコ・デ・ゴヤ
- 制作年
- 1795〜1800年(裸のマハ)/1800〜1807年(着衣のマハ)
- 所蔵
- プラド美術館
- 所在地
- スペイン・マドリード
ゴヤが同じ女性を同じポーズで、裸身と着衣に描き分けた二枚一組の名画です。マドリードのプラド美術館038室に並べて展示され、筆致やポーズの微妙な違いをその場で見比べられます。宰相ゴドイの所蔵品だった数奇な来歴と見どころを紹介します。
フランシスコ・デ・ゴヤの《裸のマハ》と《着衣のマハ》は、同じ女性が同じポーズで横たわる二枚一組の絵画です。片方は裸身、もう片方は薄い衣装をまとった姿で描かれ、マドリードのプラド美術館で並べて展示されています。どちらも同じ展示室で見比べられるのが最大の楽しみ方です。
《裸のマハ》《着衣のマハ》とは
《裸のマハ》(La maja desnuda)はプラドの所蔵番号P000742、制作は1795〜1800年、油彩・カンヴァスで97.3×190.6センチ。《着衣のマハ》(La maja vestida)は所蔵番号P000741、制作は1800〜1807年、油彩・カンヴァスで94.7×188センチです。ほぼ同じ寸法・同じ構図でありながら、制作年に数年の開きがあります。
プラド美術館の解説によると、《裸のマハ》は寝台に横たわるウェヌス(ヴィーナス)という伝統的な図像の型を踏まえています。一方の《着衣のマハ》は、透ける薄手の衣と黒い装飾をあしらった黄色い上着をまとった女性が、緑のビロードの長椅子にクッションを重ねて横たわる姿です。モデルが誰なのかは特定されておらず、アルバ公爵夫人だとする伝承のほか、1797年以降ゴドイの愛人であったペピータ・トゥドーとする説も挙げられています。プラドによれば、この女性の名は残された歴代の財産目録のいずれにも記されておらず、匿名のまま扱われ続けてきました。
「マハ」とは、18世紀末から19世紀初頭のマドリードで、独特の派手な装いと気風で知られた庶民階級の女性を指す呼び名です。上流の女性たちがその服装や仕草を好んで真似たことでも知られ、ゴヤは版画や下絵でもたびたびマハの姿を取り上げました。二枚の絵の題名は後世につけられたものですが、当時のスペイン社会が抱いた「マハ」への憧れが、この呼び名に刻まれています。
どこで見られる?
- 所蔵先:プラド美術館(国立プラド美術館)
- 都市:スペイン・マドリード
- 展示室:038室(Room 038)。二点とも同じ室に展示されています
- 予約の要否:入館は有料で、チケットは公式サイトで事前に購入できます
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 二枚を見比べる:同じ室に並ぶので、視線・手の位置・体のひねりのわずかな違いをその場で確認できます。プラドは、着衣のほうが素早く簡潔に描かれ、裸身のほうが繊細な透明感と階調を備えていると説明しています。
- ポーズの微差:一見すると同じ姿勢ですが、両作では人物の位置取りに違いがあると美術館は指摘しています。「同じ絵に服を描き足した」わけではないことが分かる、細部の発見が待っています。
- 横長の画面:どちらも幅が約190センチと、高さの倍近い横長。実物の前に立つと、等身大に近い人物が視界いっぱいに広がる感覚を味わえます。
描かれた背景
二点はいずれも、当時のスペインで絶大な権勢をふるった宰相マヌエル・ゴドイの所蔵品でした。プラドによれば、《裸のマハ》の最初の記録は1800年11月、版画家ペドロ・ゴンサレス・デ・セプルベダがゴドイの邸宅を訪ねた際の記述にさかのぼります。この絵は他のウェヌス像とともに「奥の小部屋」に掛けられていたとされ、当時から限られた人だけが目にする作品だったことがうかがえます。
その後の来歴は波乱に富んでいます。1808年のゴドイ財産目録に二点そろって記載され、1813年にはフェルナンド7世による没収財産の目録で「ジプシーの女たち」と記述されました。同年に一般没収管理局へ、1814年には異端審問所の管理下に移されます。1836年にサン・フェルナンド王立美術アカデミーへ渡り、1901年にそろってプラド美術館へ入りました。異端審問の対象になった経緯からも、裸体表現が当時どれほど微妙な問題だったかが分かります。
スペインでは長く裸体画が厳しく制限されており、そのなかで神話に仮託せず、実在しそうな同時代の女性を等身大に近い大きさで裸身のまま描いた《裸のマハ》は、極めて異例の作品でした。ウェヌスの図像を下敷きにしながらも、女性はこちらをまっすぐ見返しており、神話の女神ではなく生身の人間として描かれています。ゴヤの大胆さと、それが引き起こした波紋の大きさが、この二枚の来歴からよく伝わってきます。
まとめ
《裸のマハ》と《着衣のマハ》は、単独でも有名ですが、二枚そろって初めて意味が立ち上がる作品です。プラド美術館038室では両者が同じ空間に置かれ、ゴヤが同じ主題をどう描き分けたのかを自分の目で比べられます。マドリードを訪れるなら、時間に余裕をもってこの部屋に立ち寄ってみてください。