アダムとエヴァ:デューラーが2枚の板に描いた等身大の人体
- 作者
- アルブレヒト・デューラー
- 制作年
- 1507年
- 所蔵
- プラド美術館
- 所在地
- スペイン・マドリード
アルブレヒト・デューラーが1507年に描いた2枚一対の板絵。ほぼ等身大の裸体を1枚に一体ずつ描き、理想的な人体の比例を追究しました。プラド美術館の055B室で対になって展示されています。
《アダムとエヴァ》は、アルブレヒト・デューラーが1507年に描いた2枚一対の板絵で、マドリードのプラド美術館が所蔵します。ほぼ等身大の裸体を、左右の板に一体ずつ描いた作品です。宗教画の体裁をとりながら、実質は理想的な人体の比例を追い求めた研究の到達点であり、ドイツ絵画の歴史において記念碑的な位置を占めています。
アダムとエヴァとは
板に油彩で描かれた2枚組で、《アダム》が縦209センチ・横81センチ、《エヴァ》が縦209センチ・横80センチ。所蔵番号はそれぞれP002177とP002178です。ほぼ黒一色の背景を前に、二人の裸体が細く滑らかな輪郭線で縁取られて浮かび上がります。アダムは木の枝を握り、エヴァは禁断の実を手にしています。デューラーはこの2点で、それまで基準とされてきた八頭身の比例に代わり、より細身で優美な九頭身に近い比例を採用しました。二人は別々の板に描かれているため、対として並べて初めて一つの場面が成立する構成になっています。デューラーは1504年にも同じ主題で有名な銅版画を制作しており、そこでは楽園の動物たちを配した緻密な画面の中に二人を置いていました。本作ではそうした背景の説明をすべて削ぎ落とし、人体そのものだけを残しています。同じ主題を扱いながら、版画と絵画で狙いがまったく違う点が興味深いところです。
どこで見られる?
- 所蔵先:プラド美術館
- 都市:スペイン・マドリード
- 展示室:055B室。2枚は対として並べて展示されています
- 予約の要否:予約なしでも入館できますが、公式サイトでのオンライン購入で待ち時間を減らせます。展示室は変更されることがあるため、訪問前に公式サイトの作品ページで現在の部屋番号を確認すると確実です
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 輪郭線の美しさ:版画家として名を成したデューラーらしく、途切れのない流れるような線で身体の形が決められています。絵画でありながら線が主役になっている点が独特です。
- 暗い背景と明るい肌:背景をほぼ黒に沈めることで、明るい肌が前へ押し出されます。等身大の人物が目の前に立っているような、強い実在感が生まれています。
- 2枚で完成する構図:二人は互いに向き合うように身体をわずかに傾けており、並べて初めて視線と動きが噛み合います。一体ずつ見るのと対で見るのとで印象が変わる作品です。
加えて、9頭身に近い細身の比例が生む立ち姿の軽さにも注目してください。重心を片脚にかけて腰をわずかにひねる姿勢が、硬さのない自然な立ち方を生み出しています。イタリアで学んだ古典的な人体表現が、北方の画家の線描と結びついた瞬間がここにあります。
描かれた背景
デューラーは2度目のヴェネツィア滞在から戻った直後、1507年のはじめの数か月でこの2枚を仕上げました。当時の彼は人体の比例をめぐる理論的な研究に強い関心を寄せており、この作品も、同時代に一般的だった祭壇装飾のような宗教的まとまりに属するものではなく、完全な人体の比例という関心から生まれた裸体研究という性格が濃い作品です。2枚はニュルンベルクの市庁舎にあったと考えられ、16世紀末に市参事会から神聖ローマ皇帝ルドルフ2世へ贈られ、プラハの城のギャラリーに飾られました。1648年のプラハ略奪でスウェーデン軍に持ち去られてストックホルムへ移され、1654年、退位したスウェーデン女王クリスティーナからスペイン王フェリペ4世へ贈られます。プラド美術館に移されたのは1827年で、一般公開されたのは1838年のことでした。2009年に大がかりな修復が完了し、その成果は2010年11月から2011年3月にかけて特別展示として紹介されました。
まとめ
《アダムとエヴァ》は、宗教主題を借りながら人体そのものを主役に据えた、デューラーの理論的探究の結晶です。プラド美術館ではドイツ絵画のコーナーで、2枚が対になった本来の姿で対面できます。皇帝の居城から戦利品としてスウェーデンへ渡り、女王の贈り物としてスペインへ移るという流転の末に、この2枚はマドリードに落ち着きました。等身大という大きさと、板の前に立ったときの静けさは写真では伝わりにくいものです。ぜひ現地で、二人の間に立って体感してみてください。