睡蓮、柳の反映:上半分を失って戻ってきたモネの大作
- 作者
- クロード・モネ
- 制作年
- 1916年
- 所蔵
- 国立西洋美術館
- 所在地
- 東京都台東区
モネが1916年に描いた幅4メートル超の大作。松方幸次郎が画家本人から買い取ったものの戦争で行方不明になり、2016年にフランスで再発見されました。画面の上半分を失ったまま国立西洋美術館へ寄贈され、いまは上野の常設展で公開されています。
クロード・モネの《睡蓮、柳の反映》は、上野の国立西洋美術館が所蔵する、幅4メートルを超える大作です。第二次世界大戦の混乱のなかで行方が分からなくなり、2016年にフランスで再発見されたとき、画面の上半分は失われていました。深い傷を負ったまま日本にたどり着いた、数奇な運命の一点です。
《睡蓮、柳の反映》とは
モネは晩年、フランス・ジヴェルニーの自宅にある池を主題に、壁面を覆うほど大きな装飾画の連作へ取り組みました。本作もその制作過程で生まれた一点で、1916年に描かれた油彩・カンヴァス作品です。現在の寸法は縦199.3センチ、横424.4センチ。もともとは上下にもっと大きな画面でしたが、上半分が完全に失われたため、いま私たちが向き合っているのは残された下半分ということになります。
描かれているのは、水面に逆さに映り込んだ柳の枝と、池に浮かぶ睡蓮です。岸辺も空も描かれず、視界いっぱいが水面という思い切った構図で、パリのオランジュリー美術館に残るモネの《睡蓮》大装飾画へつながる発想を、ここに見て取ることができます。国立西洋美術館の所蔵番号はP.2017-0004です。
モネはこの時期、パリのオランジュリー美術館に収められることになる巨大な《睡蓮》装飾画に向けて、同じ主題をくり返し試みていました。本作もその試行のなかから生まれた一点で、完成した装飾画に至る画家の思考の過程を伝える作品と位置づけられています。松方幸次郎はこうした大画面の睡蓮を、ジヴェルニーのアトリエでまとめて買い取りました。
どこで見られる?
- 所蔵先:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
- 所在地:JR上野駅公園口からすぐ。開館時間は9時30分から17時30分(金曜・土曜は20時まで)で、月曜休館です。
- 展示状況・観覧料:常設展(コレクション展)で公開されており、同館の所蔵作品検索でも「展示中」と表示されています。常設展の観覧料は一般500円、大学生250円。高校生以下と18歳未満、65歳以上は無料です。
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 失われた上半分:画面の上辺は断ち切られたようになり、絵の具の剥落や水濡れの跡も残ります。傷そのものが、この絵のくぐり抜けてきた歴史を語っています。
- 水面だけの構図:地平線がありません。柳は幹ではなく水に映る影として描かれ、上下の感覚が静かに揺らぎます。横4メートルを超える画面の正面に立つと、視界がまるごと水面で埋め尽くされます。観客を絵のなかに包み込もうとしたモネの狙いが、体で分かる大きさです。
- 荒々しい筆致:近づくと絵の具を厚く重ねた筆の跡が見え、離れると水のゆらぎに変わります。晩年のモネならではの効果です。
この絵が日本にある理由
この絵を買ったのは、川崎造船所の社長を務めた実業家・松方幸次郎(1866-1950)です。松方は1916年ごろからヨーロッパで美術品を集め、1921年にはジヴェルニーのモネのアトリエを訪ね、大画面の睡蓮を画家本人から直接買い取りました。
ところが作品はパリに残されたまま、第二次世界大戦を迎えます。松方コレクションは1944年にフランス政府へ敵国資産として接収され、本作は行方が分からなくなりました。1959年、フランスは日本に西洋美術の美術館をつくることを条件にコレクションの大半を返還し、それを受け入れる器として国立西洋美術館が上野に開館します。設計を担当したのはル・コルビュジエでした。
本作が再び姿を現したのは2016年のことです。フランスで見つかって松方コレクションの一点と確認され、2017年に松方家の遺族から同館へ寄贈されました。カンヴァスはもろくなり、絵の具の剥落やカビの跡も広がっていたため、約1年をかけて修復されます。そして2019年、開館60周年記念の「松方コレクション展」で初めて公開されました。このとき、失われた上半分は白黒写真などをもとにデジタルで推定復元され、あわせて紹介されています。
まとめ
《睡蓮、柳の反映》は、完全な姿を二度と取り戻せない絵です。それでも、残された水面の筆致には、モネが最後まで追い続けた光と反映が確かに宿っています。上野の常設展で比較的いつでも会えるのも、この作品の大きな魅力です。失われた部分を想像で補いながら見ると、この絵が経てきた100年の時間まで一緒に見えてきます。日本近代の美術収集の歴史を丸ごと背負った一点として、ぜひ実物の前に立ってみてください。同じ館内には松方コレクション由来のモネ作品が複数あり、あわせて見比べると理解が深まります。
