戦艦テメレール号:帆の時代を見送る、夕陽の名画

戦艦テメレール号:帆の時代を見送る、夕陽の名画

名画
作者
J.M.W.ターナー
制作年
1839年
所蔵
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
所在地
イギリス・ロンドン

トラファルガーの海戦で戦った老朽艦が、解体場へ曳かれてゆく最後の航海を描いたターナーの代表作です。帆から蒸気への時代交代を夕陽のなかに込めた一枚で、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの第40室で無料で見られます。

夕陽に染まる空の下、幽霊のように白い帆船が黒い蒸気タグボートに引かれていきます。J.M.W.ターナーの《戦艦テメレール号》は、トラファルガーの海戦で活躍した老朽艦が解体場へ曳かれてゆく最後の航海を描いた作品です。実物はロンドン・ナショナル・ギャラリーにあり、入館無料の常設展示として公開されています。

《戦艦テメレール号》とは

正式な題はThe Fighting Temeraire, tugged to her last berth to be broken up, 1838(解体されるために最後の停泊地へ曳かれてゆく戦艦テメレール号、1838年)。1839年にロイヤル・アカデミーで発表された油彩・カンヴァスで、寸法は90.7×121.6センチ、所蔵番号はNG524です。ターナー自身の遺志によって国家に遺されました。

テメレール号は98門を備えた戦列艦で、1805年のトラファルガーの海戦ではネルソン提督の旗艦ヴィクトリー号を助ける働きをしました。しかし1838年には老朽化して海軍から売却され、テムズ川を遡って解体所へ運ばれます。ターナーはその光景を、時代の交代を告げる情景として描き直しました。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ナショナル・ギャラリー(The National Gallery)
  • 都市:イギリス・ロンドン(トラファルガー広場に面しています)
  • 展示室:レベル2(本館の展示階)の第40室。2025年のサインズベリー翼再開に合わせて大規模な展示替えが行われたため、最新の部屋番号は公式サイトの作品ページで確認できます
  • 予約の要否:常設展示は入館無料・予約不要です(企画展は別途チケット)
  • 日本での関連:2026年10月24日から国立西洋美術館で「テート美術館 ターナー展」が開かれます。ただし同展はテート美術館の所蔵品による構成で、ナショナル・ギャラリー所蔵の本作は対象外です

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 白い帆船と黒いタグボートの対比:光を浴びて非現実的なほど白く輝く帆船に対し、手前のタグボートは煙を吐く黒い塊として描かれます。帆の時代から蒸気の時代への交代が、ひと目で伝わる構図です
  • 事実をあえて曲げた演出:実際のテメレール号は曳航前にマストを外され、2隻のタグボートで運ばれました。太陽の位置も、川を遡る方角とは合いません。ターナーは劇的な効果のために現実を組み替えています
  • 沈む太陽の色:画面右の夕陽から広がる赤と黄は、ターナーの色彩表現の頂点とされます。左側にほのかに浮かぶ青白い月とのバランスも見どころです

描かれた背景

ターナーはこの絵を生涯手放さず、自分のお気に入りと呼んだと伝えられます。1851年に世を去った際、彼は膨大な作品を国家に遺しました。ターナー遺贈の大半は現在テートが管理していますが、本作を含む数点はナショナル・ギャラリーで展示され続けています。ロンドンでターナーを追いかけるなら、両館を回る必要があるということです。

イギリスでの人気は圧倒的で、2005年のBBCラジオ4の投票では、国民が選ぶもっとも偉大な絵画の一位に選ばれました。2020年に発行された20ポンド紙幣にも、ターナーの自画像とともにこの絵が採用されています。船の物語であると同時に、産業革命によって暮らしそのものが変わっていく時代の記録として受け止められてきたためです。

ちなみに画面のなかでテメレール号が向かっているのは、テムズ川沿いのロザーハイズにあった解体所です。艦は買い取られたのち木材や金具に分解され、その一部は今も教会の調度などに姿を変えて残っているといわれます。絵の前に立つとき、この船が実在し、実際に失われたという事実が効いてきます。

まとめ

《戦艦テメレール号》は、一隻の船の最期を通して、失われていく時代そのものを描いた作品です。ナショナル・ギャラリーなら無料で、しかも予約なしに実物の前に立てます。トラファルガー広場に面した建物で、トラファルガーの英雄艦の絵を見るという体験そのものが、この作品の味わいを深めてくれます。