記憶の固執:24センチの画面に溶ける時間

記憶の固執:24センチの画面に溶ける時間

名画
作者
サルバドール・ダリ
制作年
1931年
所蔵
ニューヨーク近代美術館(MoMA)
所在地
アメリカ・ニューヨーク

サルバドール・ダリが1931年に描いたシュルレアリスムの代表作。溶ける時計で知られますが、実物はわずか24.1×33センチの小品です。ニューヨーク近代美術館(MoMA)5階のギャラリー517で見られます。

「記憶の固執」は、荒涼とした海辺の風景に、ぐにゃりと溶けた時計が垂れ下がるサルバドール・ダリの代表作です。あまりに有名な図像ですが、実物の大きさは24.1×33センチと、ノートほどのごく小さな画面にすぎません。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵し、常設の展示室で見ることができます。

記憶の固執とは

制作は1931年、技法はカンヴァスに油彩。画面には三つの柔らかい時計と、蟻が群がるオレンジ色の懐中時計、そして中央に横たわる白く不定形な生き物のような物体が描かれます。この物体には閉じたまつげと鼻がついており、ダリ自身の顔を変形させた自画像的なモチーフと解釈されています。背景に伸びる断崖と静かな海は、ダリが生涯こだわり続けたスペイン・カタルーニャ地方の海岸風景に基づいています。

特筆すべきは、これほど非現実的な光景が、極めて緻密な写実技法で描かれていることです。時計の文字盤の目盛り、蟻の脚、遠景の岩肌まで、細部は徹頭徹尾リアルに仕上げられています。ありえないものを、あたかも写真のように精密に描く——この落差こそが、見る者を不安にさせる仕掛けです。

どこで見られる?

  • 所蔵先:ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art/MoMA)
  • 都市:アメリカ・ニューヨーク
  • 展示室:5階のギャラリー517(The Alfred H. Barr, Jr. Galleries)。1934年に匿名の寄贈者から受け入れられた、MoMAの中核的な所蔵品です
  • 予約:公式サイトで日時指定のオンラインチケットを購入できます。作品は常設展示ですが、展示替えの可能性もあるため、公式サイトの作品ページで在館状況を確認してから行くと確実です

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 思ったより小さい実物:世界的な知名度に反して、画面はA4用紙ほど。近づいて初めて、この小ささにどれだけの情報が詰め込まれているかが分かります。
  • 蟻の群れる硬い時計:溶けていない懐中時計だけが蟻に覆われています。腐敗や崩壊を連想させるこのモチーフが、柔らかい時計との対比を際立たせます。
  • 背景の断崖と海:非現実の舞台の奥に、実在するカタルーニャの海岸線が静かに広がります。夢と故郷の風景が地続きになっている点が、ダリの作品世界を象徴しています。

描かれた背景

1930年前後のダリは、パリのシュルレアリスム運動に加わり、頭角を現していました。彼が唱えたのは、夢や妄想を意識的に画面へ引き出すという方法論で、無意識の像を写実の技術で定着させることに執着します。柔らかい時計の着想については、ダリ自身が溶けたカマンベールチーズから思いついたと語ったことが知られています。

時計が溶けるという発想は、時間が絶対的なものではなく、心の状態によって伸び縮みするという感覚を可視化したものと読まれてきました。作品は1934年にMoMAの所蔵となり、以後アメリカにおいてシュルレアリスムを代表するイメージとして定着します。ダリは後年、この構図を核分裂のイメージと重ねて描き直した作品も制作しており、自作の図像を生涯にわたって作り変え続けました。

背景に描かれた岩肌の海岸は、ダリが少年期から慣れ親しんだカタルーニャ北東部の風景です。彼の作品には生涯このあたりの地形が繰り返し登場し、どれほど奇怪な光景を描いても、舞台だけは実在の故郷でした。夢のイメージを支えているのが記憶の中の実景であるという構造は、「記憶の固執」という題名とも響き合います。溶けた時計は柔らかさの象徴であり、その隣に硬く乾いた岩を置くことで、時間が形を失っていく感覚がいっそう際立つのです。

まとめ

「記憶の固執」は、複製で見慣れているぶん、実物の小ささに驚かされる作品です。MoMAの5階では20世紀前半の名品が集まる一角に置かれており、同時代のシュルレアリスムやモダニズムの作品と並べて鑑賞できます。日時指定チケットを取り、混雑の少ない時間帯を狙って、細部までじっくり近づいて見てみてください。