パリスの審判:ルノワールが最晩年にたどりついた神話の楽園
- 作者
- オーギュスト・ルノワール
- 制作年
- 1913-14年頃
- 所蔵
- ひろしま美術館
- 所在地
- 広島市中区
ルノワールが70代でたどりついたギリシア神話の一場面です。広島市中区のひろしま美術館が所蔵していますが、現在は巡回展「わたしたちのルノワール」に貸し出され、熊本県立美術館と東京冨士美術館の2会場のみで公開されます。訪問先の確認が必要な一点です。
ひろしま美術館が所蔵するルノワールの《パリスの審判》は、画家が70代でたどりついた神話画です。リューマチに苦しみながら描かれたとは思えない、あたたかな色と豊かな肉体。晩年のルノワールを代表する一点として知られています。
《パリスの審判》とは
オーギュスト・ルノワール(1841–1919)が1913年から1914年頃に描いた油彩・カンヴァスの作品で、大きさは73.0×92.5センチです。主題はギリシア神話の「パリスの審判」。トロイアの王子パリスが、ヘラ、アテナ、アフロディテの三女神のうち最も美しい者に黄金の林檎を与えるという場面で、トロイア戦争の発端となった物語です。ルノワールはこの主題を複数回描いており、ひろしま美術館の一点は1913年から1914年頃の版にあたります。左上には翼のある帽子とカドゥケウスを持つヘルメスが加えられ、林檎を受け取るアフロディテだけが衣をまとわない姿で描かれています。ルノワールはフランス印象派を代表する画家のひとりで、モネとともに筆触分割の実験を始めたことで知られ、後半生はリューマチに苦しみながらも旺盛な制作を続けました。
どこで見られる?
- 所蔵先:公益財団法人ひろしま美術館
- 所在地:広島市中区基町3-2、中央公園内
- 展示状況:現在は館外に貸し出されています。巡回展「わたしたちのルノワール」に出品され、熊本県立美術館(2026年7月18日~9月13日)と2027年1月26日~3月28日の2会場のみで公開される予定です。この間、ひろしま美術館では見られません
- 観覧料:ひろしま美術館は、特別展「誕生70周年記念 ミッフィー展」(2026年7月11日~9月8日)の会期中が一般2,500円、高・大学生1,000円、小・中学生500円。特別展のない時期のコレクション展示は、一般1,000円、大学生700円、高校生以下無料という設定の例があります
- 開館時間:9時から17時、入館は16時30分まで。休館日は月曜日(特別展の会期中は開館)です
展示状況や観覧料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 晩年の色:赤みを帯びた肌と黄金色の光。手が不自由になってからのルノワールが行き着いた、あたたかい色の世界が広がります
- 女神たちのモデル:右側の女神は、家政婦として一家を支えたガブリエル・ルナールがモデルとされます。神話の場面でありながら、身近な人の体温が宿っています
- 彫刻とのつながり:ルノワールは彫刻家リシャール・ギノと組み、この構図のアフロディテだけを取り出した《勝利のヴィーナス》をつくりました。ひろしま美術館は同名のブロンズ(1913年)も所蔵しており、絵と彫刻を見比べられます
この絵が日本にある理由
ひろしま美術館は、広島銀行が創業100周年を記念して設立した美術館で、1978年11月3日に開館しました。「愛とやすらぎのために」をテーマに、原爆から立ち上がる街の人々に心の安らぎをもたらす場をめざしたものです。本館は原爆ドームに着想を得た円形のドーム、周囲の回廊は厳島神社にならった造りで、広島の記憶と祈りが建築そのものに刻まれています。開館にあたって集められたのはフランス近代美術を軸とするコレクションで、ルノワールは《パリスの審判》のほか《パリ、トリニテ広場》《クロワシー付近のセーヌ河》《麦わら帽子の女》など複数点が収蔵されました。《パリスの審判》はアメリカの収集家ヘンリー・P・マキルヘニーの手を経て、広島へ渡ったと伝えられます。なお、ルノワールのアトリエを訪ねた洋画家・梅原龍三郎は、そこに「パリスの審判」が3点あったと1939年に証言しています。日本の画家がこの主題の制作現場を目撃していたという事実も、作品と日本との縁の深さを感じさせます。
まとめ
痛みを抱えた手が描いた、驚くほど幸福な楽園です。ただし現在は巡回展に貸し出されており、広島では見られません。ひろしま美術館の「貸出中の作品」ページと巡回先の会期を確かめたうえで、会いに行く場所を決めてください。

