オフィーリア:川に浮かぶ、もっとも美しい死
- 作者
- ジョン・エヴァレット・ミレイ
- 制作年
- 1851-52年
- 所蔵
- テート・ブリテン
- 所在地
- イギリス・ロンドン
シェイクスピア『ハムレット』の溺死の場面を描いたラファエル前派の代表作です。実際の川辺に5か月通って描かれた植物と、一輪ずつに込められた花言葉が見どころ。ロンドンのテート・ブリテンで、予約なし・入館無料で実物と向き合えます。
水面に仰向けで漂い、口をわずかに開いたまま歌い続ける少女。ジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》は、シェイクスピア『ハムレット』のヒロインが川で溺れる場面を、驚くほど克明な自然描写とともに描いた油彩画です。実物はロンドンのテート・ブリテンにあり、無料で公開されている常設展示のなかで見ることができます。
《オフィーリア》とは
原題はOphelia。1851年から52年にかけて制作された油彩・カンヴァスで、大きさは762×1118ミリ、テートの所蔵番号はN01506です。1894年にヘンリー・テイト卿から寄贈され、テート・コレクションの中核をなす一枚となりました。
主題は『ハムレット』第4幕第7場。王妃ガートルードが、オフィーリアが花輪を作ろうとして川に落ち、衣服が水を吸って沈んでいったと語る場面です。この出来事は舞台の上では演じられず、台詞のなかだけで語られます。ミレイはその見えない場面をあえて絵にしました。狂気のうちに川へ落ちた娘が、まだ死にきらず歌を口ずさんでいる、ごく短い時間が選ばれています。
どこで見られる?
- 所蔵先:テート・ブリテン(Tate Britain)
- 都市:イギリス・ロンドン(テムズ川沿いのミルバンク地区)
- 展示室:常設展示「Beauty as Protest(美という抵抗)1845–1905」の部屋。テート・ブリテンの展示室は年代とテーマの名前で案内されますが、あわせて「Main Floor, Room 10」のように階と室番号も示されています
- 予約の要否:コレクション展示は入館無料・予約不要です。企画展だけは別途チケットが必要になります
- 注意点:貸出や修復で一時的に展示から外れることがあります。訪問前に公式サイトの作品ページで展示状況を確認すると確実です
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 背景は本物の川辺で描かれた:ミレイはサリー州のホッグズミル川のほとりに通い、1日11時間・週6日を5か月続けて風景部分を先に完成させました。人物は後からロンドンのアトリエで描き足されています
- 花の一つひとつに意味がある:柳は見捨てられた愛、ヒナギクは無垢、スミレは父の死、イラクサは痛み、パンジーは物思いを表します。シェイクスピアの原文にない赤いケシは、眠りと死の象徴として加えられました
- 色が濁らない塗り方:明るい白の下地の上に絵具を一層で置いていく手法をとったため、150年以上たった今も水草や衣装の色が澄んで見えます
描かれた背景
ミレイは1848年、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらとともにラファエル前派兄弟団を結成しました。ラファエロ以降のアカデミー的な絵画の約束事を拒み、自然を目の前にして忠実に描くことを掲げた若い画家たちの集まりです。《オフィーリア》の異常なまでに細かい植物描写は、その主張をそのまま形にしたものでした。
モデルを務めたのは、のちにロセッティの妻となるエリザベス・シダルです。溺れる姿を再現するため、ミレイは彼女を服のまま浴槽に横たわらせました。水を温めるランプが消えたことに気づかず描き続けたため、シダルはひどい風邪をひき、父親が治療費を請求したという逸話が残っています。衣装は古着屋で買い求めた銀糸の刺繍入りのドレスで、水に沈む布の重さまで実物を見ながら描かれました。
ミレイはこの絵を1852年のロイヤル・アカデミー展に出品します。当初は細部にこだわりすぎるとして批判もありましたが、やがて評価は定まり、現在ではテートでもっとも人気の高い作品の一つとして、ミュージアムショップの絵はがきの定番にもなっています。花が同時期に咲かない組み合わせで描かれているのも、5か月にわたって目の前の実物を写し続けた結果です。
まとめ
《オフィーリア》は、文学の一場面と徹底した自然観察が結びついた、ラファエル前派を代表する一枚です。テート・ブリテンでは無料で、しかも予約なしに実物と向き合えます。ロンドンを訪れるなら、ぜひ時間を取って花の一本一本まで眺めてみてください。