アメリカン・ゴシック:アメリカで最も知られた、寡黙な二人

アメリカン・ゴシック:アメリカで最も知られた、寡黙な二人

名画
作者
グラント・ウッド
制作年
1930年
所蔵
シカゴ美術館
所在地
アメリカ・シカゴ

グラント・ウッドが1930年に描いた、熊手を持つ男と女の肖像。アイオワ州エルドンで見かけた尖頭アーチ窓の木造住宅に着想を得ています。シカゴ美術館のギャラリー263に常設展示され、1930年の公募展での受賞をきっかけに一躍全米に知られました。

「アメリカン・ゴシック」は、熊手を握った男性と、その傍らに立つ女性を、尖ったゴシック窓のある家の前に配したグラント・ウッドの作品です。20世紀アメリカで最も広く知られた絵画のひとつで、無数のパロディを生んできました。シカゴ美術館が所蔵し、アメリカ美術の展示室に常設されています。

アメリカン・ゴシックとは

制作は1930年。技法は油彩ですが、支持体はカンヴァスではなくビーバーボードと呼ばれる硬質の板紙で、大きさは78×65.3センチです。男性のオーバーオールには薄青の絵具で「GRANT / WOOD / 1930」と署名と年記が記されています。作品はシカゴ美術館の Friends of American Art Collection に属し、受入番号は1930.934です。

タイトルの「ゴシック」は人物ではなく建物を指します。ウッドはアイオワ州エルドンで、小さな木造住宅に不釣り合いなほど立派な尖頭アーチの窓が付いているのを見かけ、こういう家に住んでいそうな人物を想像して描いたと語られています。モデルを務めたのは、画家の妹ナン・ウッドと、家族のかかりつけの歯科医バイロン・マッキービーでした。二人は夫婦ではなく、父と娘として構想されています。

どこで見られる?

  • 所蔵先:シカゴ美術館(The Art Institute of Chicago)
  • 都市:アメリカ・イリノイ州シカゴ
  • 展示室:ギャラリー263(アメリカ美術の常設展示室)
  • 予約:シカゴ美術館は公式サイトで日時指定のオンラインチケットを販売しています。作品は常設展示ですが、貸し出しや展示替えの可能性もあるため、公式サイトの作品ページで在館を確認してから行くと確実です

開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。

見どころ3選

  • 三又の熊手の反復:男性が握る熊手の三本の穂先は、オーバーオールの縫い目の線、そして背後の窓の割り付けへと形を変えて繰り返されます。画面全体を貫く垂直のリズムを作る仕掛けです。
  • 視線の向き:男性は正面をまっすぐ見据え、女性はわずかに視線を横へそらします。二人の関係も心情も説明されず、その空白が見る者の想像をかき立てます。
  • 細部への異様な集中:カーテンのプリント、エプロンの縁飾り、眼鏡のフレーム、家の板張りの目地まで、すべてが均等な鮮明さで描かれています。北方ルネサンス絵画を思わせる緻密さです。

描かれた背景

本作は1930年にシカゴ美術館の公募展で初めて公開され、300ドルの賞金を獲得しました。この受賞をきっかけに新聞で広く報じられ、ウッドは一夜にして全米に名を知られる画家となります。作品はそのままシカゴ美術館の所蔵となり、以後ずっとこの館にあります。

ただし発表当時の反応は好意的なものばかりではありませんでした。とりわけアイオワの人々からは、自分たちを陰気な田舎者として揶揄しているのではないかという反発が起こります。ウッド自身は風刺の意図を否定し、中西部の人々への敬意を込めたと説明しました。この曖昧さこそが作品の生命力の源で、称賛としても皮肉としても読めるがゆえに、大恐慌期のアメリカを映す鏡として機能し続けています。

制作された1930年は、前年の株価大暴落から世界恐慌へと突き進んでいた時期にあたります。ヨーロッパ帰りの前衛が幅を利かせるなか、ウッドは中西部の土地と人をこそ描くべきだと考え、同時代の画家たちとともに地方主義(リージョナリズム)と呼ばれる潮流をつくりました。硬く動かない二人の姿は、不況の時代に踏みとどまるアメリカの自画像として受け取られていきます。

ウッドの技法にも、ヨーロッパでの経験が生きています。ドイツ滞在中に接した北方ルネサンス絵画の、細部まで均等に描き込む手法を吸収し、それをアイオワの農家の肖像に適用したのが本作でした。

まとめ

「アメリカン・ゴシック」は、パロディを通じて図像だけが独り歩きしてきた作品です。実物の前に立つと、まず筆致の精密さと画面の静けさに驚かされます。シカゴ美術館のアメリカ美術の展示室には同時代の作品も並びますので、日時指定チケットを確保して、1930年代アメリカの空気ごと味わってみてください。