快楽の園:閉じると「世界の創造」が現れる三連祭壇画
- 作者
- ヒエロニムス・ボス
- 制作年
- 1490〜1500年頃
- 所蔵
- プラド美術館
- 所在地
- スペイン・マドリード
ヒエロニムス・ボスが1490〜1500年頃に描いた三連祭壇画で、プラド美術館56A室に展示されています。楽園から地獄まで、無数の奇妙な生き物と巨大な果実が詰め込まれた画面は、500年以上にわたって解釈が語り継がれてきました。翼を閉じると現れる灰白色の「世界の創造」も見どころです。
ヒエロニムス・ボスが1490年から1500年ごろに描いた「快楽の園」は、マドリードのプラド美術館が誇る三連祭壇画です。左に楽園、中央に裸の人々と巨大な果実があふれる園、右に暗い地獄が並び、両翼を閉じると灰白色の「世界の創造」が現れます。無数の奇妙な生き物と細部が詰め込まれ、500年以上ものあいだ解釈が語り継がれてきました。
「快楽の園」とは
プラド美術館の公式情報では、制作は1490〜1500年、樫材の板に油彩(外側の翼はグリザイユ)で、高さは185.8センチ、中央パネルの幅は172.5センチ、所蔵番号はP002823です。ボスはネーデルラントのスヘルトーヘンボスに生まれた画家で、通称の「ボス」は生地の名に由来します。本作は三枚の板をつないだ祭壇画の形式をとりますが、教会の祭壇を飾るためというより、貴族の館に置かれる作品として構想されたと考えられています。閉じた状態と開いた状態で世界がまったく変わる、装置のような絵画です。左翼には、キリストのような姿で描かれた神がアダムにエヴァを引き合わせる場面が置かれ、中景には楽園の四つの川の泉、生命の樹と結びつけられる竜血樹、そして蛇が巻きつく知恵の樹が描かれています。物語はこの左翼から始まり、中央、右翼へと読み進める構成になっています。
どこで見られる?
- 所蔵先:プラド美術館(ビリャヌエバ館)/所蔵番号 P002823
- 都市:スペイン・マドリード
- 展示室:56A室。ボスの作品をまとめて展示する部屋で、公式サイトの作品ページでも「展示中」と案内されています。
- 予約の要否:入館にはチケットが必要です。当日窓口でも購入できますが、混雑期は待ち時間が長くなるため、公式サイトでの事前購入がおすすめです。
開館時間や入館料は所蔵館の公式サイトで確認してください。
見どころ3選
- 閉じた状態の「世界の創造」:両翼を閉じると、灰白色のグリザイユで描かれた創造三日目の地球が現れます。上部には三重冠をかぶり書物を開く神が小さく描かれ、詩篇148篇からのラテン語の銘が添えられています。
- 中央パネルの群像:裸の人々、空想上の動物、人間より大きな果実が画面を埋め尽くします。中央の池のまわりを騎馬の列が回り、上部には現実にはありえない建造物がそびえます。地上の快楽のはかなさを示すものと読まれてきました。
- 右翼「音楽の地獄」:楽器を用いた責め苦を受ける人々が描かれ、うつろな胴体をもつ「木の人間」が中心に立ちます。人を呑み込む怪物は強欲、酒場の場面は暴食というように、罪ごとに罰が描き分けられています。
描かれた背景
本作はナッサウ伯エンゲルベルト2世らネーデルラントの貴族が所有していたとされ、1568年にオラニエ公ウィレムのもとから接収されました。その後スペイン王フェリペ2世の手に渡り、1593年にはエル・エスコリアル修道院へ運ばれます。当時の記録には「イチゴノキの絵」と呼ばれる、世界の多様さを描いた絵として記されました。20世紀に入ってプラド美術館へ移され、現在は国家遺産機構からの寄託という形で公開されています。三つの画面をつなぐのは「罪」というテーマで、蛇の登場から人間の逸楽、そして永遠の罰へと連なる教訓画として理解されてきました。閉じた外面のグリザイユから、開いた内部の極彩色へという構成は、当時の祭壇画の作法にならったものです。ボスはその形式を借りながら、教えを説く画面のあいだに、見たこともない果実や生き物を大量に配置しました。「快楽の園」という題名も画家自身がつけたものではなく、後世に定着した呼び名です。エル・エスコリアルの記録では「イチゴノキの絵」と呼ばれており、時代によって受け取られ方が変わってきたことがうかがえます。
まとめ
「快楽の園」は、遠くから全体を眺めても、近づいて細部を追っても飽きることのない作品です。プラド美術館の56A室では、開いた状態の三連画を正面から見ることができます。細部の一つひとつに意味が割り当てられているため、時間に余裕をもって向かいたい一点です。マドリードを訪れるなら、この部屋のためだけに半日を空けても惜しくありません。